
今はどうか分かりませんが、ぼくが台北にいた頃、肉屋は子どもにとってかなり刺激的なお店でした。
というのも、売り物の鶏肉が首を切り落とされたまま、天井から逆さまにぶら下がっていたんです。たぶん血抜きのためなんでしょうね。
それは、庭でアルマイトの洗面器に手を入れて遊んでいるシーンから始まります。
午後の日差しにぬるく温まった水でした。
水の生ぬるさや水面に反射する光を、何も考えずにぼーっと眺めて楽しんでいた時間。
と、そのとき。
なんだか不吉なことをふと思いついてしまったんです。
考えちゃいけないことを頭に浮かべてしまった気がして、ぞっとしました。
「あ、やばい!」
でも、もう遅い。
いきなり場面が肉屋に切り替わって、
天井から逆さまに吊るされた鶏の肉塊がぐいっとアップになるんです。
首のない鶏たちに、命が宿ってしまった――そんな直感が走りました。
当時、ゾンビ映画なんてまだなかったはずですが、
まるでゾンビのように鶏肉が動き始めるんです。
梁に括られた縄から足を外そうともがく、首のない鶏たち。
そのうちの2羽が、いつのまにか大人くらいのサイズに巨大化して襲ってきました。
鶏というより、毛をむしられた首なしダチョウみたいなそいつらが、
ゾンビとは思えないスピードで一直線にぼくを追ってきます。
恐怖で必死に逃げるぼく。
街の中を走りながら助けを求めるけど、誰も助けてくれません。
それでも家に向かって走りながら、
さっきの洗面器の水のことが頭にちらつくんです。
「あの水が原因なんだ…」って、子どものぼくは悟るんです。
庭に飛び込み、洗面器を覗きこみながら、迫ってくる怪物におびえて叫びました。
「わー!どうしたらいいんだー!」
もう絶体絶命!
――ってところで、目が覚めました。