洪水の夜

台湾は台風の通り道です。

通り道と言う意味では、日本も似たようなものですが、住む場所によって影響度って違いますよね。
台北における台風の影響は圧倒的でした。
私たち一家は台北で一軒家を借りて住んでいたのですが、ある年、台風の雨でその地域が洪水になったことがありました。
その日、私たち一家は、停電に備えて懐中電灯やローソクを用意したりして、家で台風の様子をうかがっていました。
午後になって、浸水が始まり、庭に面した居間から水が入ってきました。
はじめ足首くらいだった水かさが上がり、居間の軽い家具がプカプカ浮いています。

水は泥のような濁った色です。
母に汚いから入らないようにと注意されて私と弟はソファの背もたれに登り、そこも危なくなると2段ベッドの上段に避難しました。
子供だった私は、冒険が始まったようにワクワクしていました。
父は救助を待っているようでしたが、危険な程に水が上がってきたので、脱出することになりました。
もう暗くなっている上、台風の雨はおさまっていません。

私は父に肩車をされて、父の腰まである水の中を進んで行きました。
今考えると、夜中にそんな深い水の中を歩いてよく無事だったものです。
近くを川が流れているのですが、その土手が、辺りで一番標高が高い場所です。
土手の上は舗装された道路になっています。
私たちはどうにか土手にたどり着き、ひとまず溺れ死ぬ危険はなくなりました。
しかし、洪水の中を雨にふられたので体はビショビショです。

父はアメリカ軍が助けてくれる、という話をしていたように思います。
たしかにアメリカ軍のバスだかトラックだかが通りかかり、それを父が止めて、乗せてくれるように交渉しました。
だが、乗せてもらった記憶はないのです。
そこからどう移動したのか不明です。

次の記憶は、翌朝なのか、何日か後か。近所なのか、台北の郊外なのか。仮住まいした家の光景です。しばらく、そこに住むということでした。

その家に始めて入ったとき部屋の白っぽい壁の角に大きなクモが巣を張っていました。
その後、それほどの間をおかずに、私たち家族は洪水に見舞われた家に戻りました。
家は修理が終わり、使えなくなった家具は処分されていました。
そんな洪水が私たちが台湾に居た6年間に2回ほどありました。

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